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​名曲喫茶クラシック

「そんな押し付けがましいことはしないよ」―――。

店主・美作七朗はこういい、決して自分から曲を勧めることはなかった。リクエストボードに書かれた順番に淡々とレコードを回し、いつも定位置の椅子にたたずむ彼の振る舞いに魅せられたファンは多い。  

こうして名曲喫茶の草分け中野「クラシック」は、戦後の焼け野原の頃からレコードやオーディオ機器が高価で自分の家で音楽を楽しめない音楽ファンにその場を提供してきた。 

コーヒー1杯でその日一日出入り自由という商売っ気のない営業スタイルは、美作が多様な人たちが出入りできるようにと願ったもの。疲れを癒し、くつろぎ、元気に店を出ていってくれることは人間が好きな彼にとって喜びだった。

リクエストに区切りがつくとベ-ト-ヴェンの『セレナ-デ ニ長調op.8』を好んで聴いていた。

1950~60年代、そんな「クラシック」は知られざるカウンターカルチャーの拠点でした。 

小説家の五木寛之、安部公房、三木卓や音楽評論家の宇野功芳、漫画批評家の夏目房之介ら時代を担った文化人や芸術家が集い交差していました。

『COM』や『ガロ』に連載し手塚治虫の虫プロでも活躍した漫画家の永島慎二と美作の仲はよく知られています。そして、個性的な内装やミルクピッチャー、レコードコレクションなど多くの伝説があります。

名曲喫茶クラシック前の美作七朗
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